こんにちは。『イノシチ』シリーズの原作・文章担当、宮本小鳩です。
イノシチが生まれたきっかけは、2007年の亥年の年賀状イラストです。イノシシのキャラクターであるイノシチと彼の仲間たちが、不思議な花を囲んでいるという集合絵ですが、ひょんなことからこの絵のシーンに辿り着くような物語を書いてみようか……という事態と相成りまして、2009年末、なかなかにしょうもないドタバタコメディみたいなお話が『イノシチ』となりました。
以降、短いスピンオフのお話などを交えつつ、細々と作り続けてきたのですが、2019年、ついにイノシチ本編の続きとなる長編小説『イノシチ 旅に出る』をまとめることができました。あの年賀状絵から、ちょうど干支が一回りしたタイミングでぜひ、ということで、正直いささか焦ってしまったところもなくはないのですが……ともかく、形にできたということに関しては嬉しく思っております。
『イノシチ 旅に出る』は、主人公イノシチと、その親友であるシシゾーを中心とした、言ってみればまあ“グルメ旅”物語です。
キノコ町の居酒屋でアルバイトをしながら、路上で似顔絵を描いている青年・イノシチが、スポーツジムのインストラクターであるシシゾーに、ある日突然グルメ巡りツアーに誘われるところから物語は動き始めます。実はこのふたり、お互いそれぞれの事情によって旅に出ることを余儀なくされるのですが……それは読んでのお楽しみ、です。
旅先で彼らは、気心の知れた仲間との再会や、新たな出会いを多く経験します。やがてそれは、かつてイノシチをとある騒動に巻き込んだ張本人の(でも本人は実は世話好きのお人好し)シシヤマをも巻き込み、彼にまつわる別の物語も絡み合って進んでいくことになるのです。
イノシチのキャラクター設定についてですが、性格に関してはほぼ私の分身といっても差し支えないかと思います。ちょっと内気で慎重派、でも好奇心は割とあって、たまに大胆な行動に出てしまうこともある……そんな感じを彼にも投影させてみました。外見はとりあえず置いておくとして(なぜならば、作者は一応人間だからです)。
それに対して、シシゾーは全く逆の明るく能天気なキャラクターにしてみました。シシゾーの行動に関して、一つ明確に意識していることがあります。それは、「決して人見知りをしない」ということです(何を隠そう、これは作者宮本が何よりも苦手とすることの一つです)。シシゾーはあまりにも人懐っこいので、道行く人(イノシシ)を見ればためらわずにすぐ声をかけますし、困りごとやもめごとを見つけたら真っ先にすっ飛んで行ってしまうような、そんなタイプです。彼があちこち走り回るからイノシチも翻弄されまくり、トラブルにも遭えば面白い出来事にも出会える、というわけです。
『イノシチ 旅に出る』は、ジャンルで言うならば“ほのぼの擬人化コメディ小説”と言っていいかと思います。いわゆる今流行りの作風でもありませんし、そこまでショッキングな事件が起こるわけでもありません。舞台となるイモガラ島には、イノシシたちが日々愉快に暮らしています。正直、どこに需要があるのかと問われれば、作者の私自身うまく答えられる自信がありません。
ですが、この小説にはのんきなイノシシたちというだけでは語れない、登場人物たちそれぞれに秘められたさまざまな悩みや過去などが根底にあります。それらはそこまであからさまに物語本編に影響してくるわけではありませんが、きっと現実世界の我々人間もまた、同じようにそうやって日々を頑張って生きているのではないだろうか、と思えてくるのです。それを少しでも感じてくれたらいいな、とひそかに願っております。
イノシチ 旅に出る
https://inoshichi.booth.pm/items/2547258
あらすじ:イモガラ島に暮らすイノシシの「イノシチ」は、以前ひょんなことから幻のキノコを発見して一躍〝賢者〞として有名になってしまった、ちょっと内気な絵描きの青年。 ある日、親友のシシゾーが彼をグルメ巡りツアーへ誘いに来る。ちょうどそこへ、イノシチのバイト先の居酒屋が突然崩壊したというニュース速報が。そしてシシゾーもまた、勤め先のスポーツジムをクビになっていた─。 事情は違えども、偶然同じタイミングで束の間の自由を得た彼らは、行く先々で顔見知りの仲間たちと出会ったり、様々な騒動に巻き込まれたりと珍道中を繰り広げるのであった!